桑の葉と言えば、血糖値の降下や糖尿病予防に効果の期待できる健康食材として有名ですね。
けれども、桑の葉にあると言われる効能は、それだけではありません。
糖尿病は、私たちが思っているよりもより複雑な病気です。
単に糖質を食べるのを抑えればよいというものではなく、高血圧、肥満、動脈硬化、脂質代謝の異常など、他の深刻な生活習慣病とも密接な関わりを持ち、日頃のライフスタイルや全身の体調全てから大きな影響を受けて発症します。
桑の葉には、血糖値の抑制効果で有名なDNJ (1-デオキシノジリマイシン) ばかりでなく、他にも多くの栄養素や有効成分が備わっており、それらが複合的に作用しあって、糖尿病だけでなく周りに付随するさまざまな生活習慣病をも予防する助けとなる可能性が、複数の研究によって明らかなりつつあります。
ここでは、そんな桑の葉に期待できる、現代人の健康維持に欠かせないあらゆる効果・効能について、主だったものを一覧できるように大まかにまとめました。
下の目次欄より、興味のある項目にジャンプしてご覧ください。
それぞれのより詳しい解説や研究情報については、別記事のあるものについては項目内にリンクを貼ってありますので、そちらをご覧ください。
目次
血糖値の抑制・糖尿病の予防の効果
すでにご存じかと思いますが、桑の葉には、血糖値の急上昇を抑制し、糖尿病の予防を助ける効果が期待されます。
- 1-デオキシノジリマイシンの化学構造
- ブドウ糖(グルコース)の化学構造
桑の葉には幾つかの抗血糖成分が含まれていますが、その中でも特に DNJ (1-デオキシノジリマイシン) は「イミノ糖 (擬似糖質)」と呼ばれ、糖質と非常に類似した化学構造を持っています。
そのためDNJは、小腸で糖質を吸収する作用を助ける「α-グルコシターゼ」と呼ばれる酵素といち早く結合し、それによって本物の糖質とα-グルコシターゼが結びつくのを阻害することができます。
こうして糖質の吸収がある程度妨げられ、血液中に流れ込む糖の量が減るので、結果として血糖値の急上昇を抑えることができるのです。
詳しくはこちらをどうぞ。
オススメ! 桑の葉に多い“1-デオキシノジリマイシン(DNJ)”が血糖値を抑えてくれる仕組みは?
また、DNJと同じくイミノ糖であり、やはり桑の葉に多く含まれる「ファミゴン」には、私たちの体内の生体化学反応の一つである“解糖系”を加速させ、インスリンの分泌を促進する作用があります。
解糖系は、吸収された糖を幾つもの化学変化を経てエネルギーに代えるためのシステムですが、これが加速すると、血中の糖が細胞に取り込まれてエネルギーに変わるスピードが速くなります。
同時にインスリンの分泌も増し、細胞が血液中の糖を取り込む作用がより促進され、結果として血糖値も下がってくるというわけです。
血圧の抑制・高血圧の予防の効果
桑の葉には血圧の上昇を抑える作用があり、高血圧の予防効果を期待できることが、幾つかの研究から示唆されています。
実験動物のラットを用いた研究について、下の別記事で詳しく解説していますのでご覧ください。
参 考 桑の葉が高血圧を予防して糖尿病の合併症を防ぐ?■神奈川県の研究論文より
桑の葉には、γ (ガンマ) -アミノ酪酸 と呼ばれる物質が多く含まれています。
γ-アミノ酪酸は、通称“GABA (ギャバ) ”とも呼ばれます。
玄米やカカオに豊富に含まれ、脳内で抑制系の神経伝達物質として働くため、不安やストレスを軽減する注目成分として、一時チョコレートの宣伝でも話題になりました。
このGABAですが、実は血圧を下げ、高血圧を予防する働きも期待されています。
GABAは、交感神経に働きかけてノルアドレナリンの分泌を抑えることで、血管の収縮を抑制する作用があります。
また、血液中に塩分が多すぎると、その塩分を薄めようとして血管が水分を多量に取り込むため、血管壁に負担がかかり血圧が上がります。
血液中の過剰な塩分は、腎臓の働きによって尿とともに排出されますが、GABAには腎臓を活性化して利尿作用を促す作用があります。
この結果、血圧を下げる効果があるというわけです。
その他、桑の葉に含まれ、血圧を下げる効果があるといわれる成分としては、玉ねぎ等にも多いポリフェノールの一種、ケルセチン が挙げられます。
血管を守る・動脈硬化の予防効果
アテローム性動脈硬化は、LDLコレステロールが血管にできた傷から血管壁に入り込み、活性酸素に酸化されることで引き起こされます。
酸化されたLDLコレステロールは、体の組織から異物と見なされ、白血球に捕食されてしまいます。
そしてその死骸が粥状 (=アテローム状) の塊となって血管にへばりつき、血管を硬く肥厚させ、元々はゴムのようにしなやかな血管を、脆くて狭いものにしてしまいます。
すると体内の大事な組織に酸素や栄養が行き渡らず、脳卒中や虚血性心疾患といった命に関わる重大な病気を引き起こすというわけです。
しかし最近の研究により、桑の葉に豊富に含まれるフラポノイドの一種が、強力な抗酸化成分としてLDLコレステロールの酸化を抑え、動脈硬化の発生率を低下させる可能性が示唆されています。
このフラボノイドは、「ケルセチン3-(6-マロニルグルコシド)」という物質で、ケルセチン配糖体の一つです。
省略して“Q3MG”などと呼ばれています。
島根大学と島根県産業研究センターなどの産学官共同研究では、マウスに高コレステロール食とQ3MGの抽出物を混ぜたエサとを与え、動脈硬化の発生率を比較する実験をしました。
すると、高コレステロール食にQ3MGを混ぜたエサを与えたマウス群は、高コレステロール食のみを与えた群よりも、動脈硬化の発生率が約半分に抑えられていたのです。
この研究結果から、桑の葉に特有的に多く含まれるQ3NGが、アテローム性動脈硬化の予防を助ける効果が多いに期待されています。
また、アテローム性動脈硬化は、血管の傷が増えると当然ながら発症率も高まります。
血管は、高血糖・高血圧・高脂血などにより大きな負担がかかり、傷つきやすく脆い状態になることが分かっています。
桑の葉は、さまざまな有効成分や栄養素による相互作用で、血糖値や血圧を低下させ、脂質代謝を改善して血中の中性脂肪やコレステロール値を抑える可能性が示唆されています。
つまり、血管を丈夫に保ち、動脈硬化を予防する効果にも繋がるわけですね。
実際、上記の島根県の研究でも、Q3MGを単体で与えるよりも桑葉そのものを与えた方が、より動脈硬化の発生率を低くするという結果が出ています。
※ 参考リンク
「クワの健康機能性研究の最前線」
脂質の代謝をよくする・脂質異常症、脂肪肝、肥満などの予防効果
現代人は、脂っこいものを頻繁に食べる食生活に陥りやすいようです。
脂質を過剰に摂りすぎていると、血中の中性脂肪やコレステロールの値が異常に上がる高脂血症=脂質異常症や、肝臓に脂肪が蓄積して正常な機能を冒す脂肪肝、あるいは肥満などを引き起こし、糖尿病や動脈硬化などを合併するメタボリックシンドロームに陥りやすい体質となってしまいます。
桑の葉に豊富に含まれるフラボノイド類、特に上記で動脈硬化の予防が期待される注目成分としてご紹介した“Q3MG”には、抗酸化作用によって肝臓の酸化ストレスを軽減し、肝臓に沈着する脂肪の量を抑えて肝臓を保護する効果が期待されています。
またQ3MGには、β-酸化系に関わる酵素を活性化して、脂肪の代謝を促進する作用があることが分かっています。
β-酸化系とは、細胞や各組織に存在する生体化学反応系の一つで、幾つもの化学反応を経て脂肪をエネルギーに変換するシステムのことです。
さらに、桑の葉に含まれるフラボノイド類には、肝臓でコレステロールを合成するシステムに働きかけてコレステロールの合成を促進し、結果として血中のコレステロール値を抑える効果が期待されることが、実験で示唆されています。
これらの研究について詳しくは、下記の別記事をご覧ください。
参 考 桑の葉が脂質を抑えて糖尿病の原因となる肥満を予防する?■神奈川県の研究論文より
善玉菌の活性化を促す・プレバイオティクスや便秘改善の効果
上記『血糖値の抑制・糖尿病の予防の効果』でも述べましたが、桑の葉に含まれる DNJ (1-デオキシノジリマイシン) が小腸で糖質の消化吸収を妨げるので、吸収されなかった糖質が大腸まで送られます。
そして大腸において、それらの糖質は乳酸菌やビフィズス菌など善玉菌のエサとなり、発酵されて短鎖脂肪酸+水素ガスやメタンガスなどに分解されます。
つまり、善玉菌のエサとなることでそれらの菌を活性化させ、結果として悪玉菌の活動が抑えられるので、腸内環境の改善に繋がると考えられます。
また、善玉菌に分解されて発生した短鎖脂肪酸は徐々に体内に吸収されていきますが、水素ガスやメタンガスは腸の蠕動を促進し、便の排出を促すこととなります。
さらに、桑の葉に豊富に含まれる 食物繊維 によっても、便が軟らかくなる、腸内がきれいに掃除されるなど整腸作用の促進が期待できます。
桑の葉のプレバイオティクス作用については、長崎県立大学が興味深い研究をしています。
下の別記事でも触れてありますので、興味のある方はご覧ください。
参 考 桑の葉をデザートや主食に活用して糖尿病リスクを低下!?■長崎県立大学シーボルト校の研究
① 食道・胃・十二指腸など消化管の上部で分解・吸収されず、
② 大腸に棲む有益な菌(乳酸菌・ビフィズス菌など)のエサとなってそれらの増殖を促し、
③ 腸内環境を正常な状態に整え、健康の増進に寄与する。
この3つの条件を満たす食品成分を指します。
現在、オリゴ糖類(フラクトオリゴ糖・ガラクトオリゴ糖 etc.)や食物繊維(ポリデキストロース、イヌリン etc.)の一部が、プレバイオティクスとして認められています。
桑の葉に期待される、さまざまな効果・効能まとめ

他にもあらゆる側面から私たちの内臓や組織の機能を守り、いつまでも元気で若々しく過ごすための頼もしいサポーターとなってくれそうです。
ただしあくまでも、“予防”や“健康維持”に有効な可能性のある一手段としてお役立てくださいね。
医師より何らかの病気と診断されれば、桑の葉商品を使ってその“病気を治す”効果までは期待しないほうがよいです。
- オススメ! 桑の葉に、糖尿病をはじめとする生活習慣病の治療 or 改善の効果を期待できる? できない? これについては、下記の2つの別記事をご参照ください。
- 【結論①】桑の葉に糖尿病の治療や症状の改善をする効果は、ある?ない?
- 【結論②】桑の葉に血糖値や血圧、中性脂肪やコレステロール値を下げる効果はある?ない?
最後に、桑の葉に期待できる効果・効能について一覧表を挙げておきます。
※ 研究により、効果効能を有する可能性が示唆されているもの。動物実験段階のものも含む。
※ 桑の葉茶やサプリメントは、あくまでも“食品”であり“薬”ではありませんので、当然ですが医薬品のような顕著な効能は期待できません。桑の葉食品には個体差や商品差もあり、さらに使用する個人の体質や生活環境もそれぞれです。決してこれらの効果・効能を全て保証するものではありませんので、ご了承ください。
効果・効能 | 関連する有効成分・栄養素 |
---|---|
血糖値の抑制・糖尿病の予防 | 1-デオキシノジリマイシン(DNJ) |
血圧の抑制・高血圧の予防 | γ-アミノ酪酸(GABA)、フラボノイド類 |
血管を守る・動脈硬化の予防 | ケルセチン3-(6-マロニルグルコシド)(Q3MG)、DNJ |
脂質の代謝をよくする脂質異常症、脂肪肝、肥満などの予防効果 | Q3MG、フラボノイド類、食物繊維 |
腸内環境の改善・便秘解消プレバイオティクスの効果 | DNJ、食物繊維 |
>> 記事の一覧へ