これまでの記事で、さまざまな大学や研究機関が発表してきた研究データや論文を検証し、桑の葉にはやはり血糖値を下げ、糖尿病予防を助ける効果がある程度期待できるらしい…という内容を述べてきました。

「これらの大学や研究機関は、桑の葉産業の発展や経済的効果を狙う健康食品業界や地方自治体に、大なり小なり関与している。
果たして本当に、客観的な科学データとして信頼できるのかしら?」
…と。
もっともです。
確かに、成長戦略の一環として地方産業の振興を積極的に後押しする政府の力を借りて、かつての絹産業の名残として全国各地に残っている桑畑の有効活用を目指し、桑の葉の健康的効能を科学的に証明して新たな商品開発に繋げようという動きが、幾つかの自治体と地元企業が産学協同の形で連携して活発になっています。
参 考 桑の葉の効果・効能について論文がたくさん発表されているのはなぜ?
ですので、やはり経済的な利害関係のない、純粋に独立した公的機関による客観的な見解を知りたいと考える方がおられるのも、至って自然なことです。
そこで今回の記事では、桑の葉の健康食品としての効果・効能、そして副作用の有無など安全性に関して、独立行政法人である「国立健康・栄養研究所」による見解 をご紹介したいと思います。
目次
「国立健康・栄養研究所」とは、一体どんな公的機関?
「国立健康・栄養研究所」は、
- 栄養と食生活に関する調査研究を行い、国民の健康の維持と増進に寄与する。
- 公衆衛生の向上に努める。
主にこの2点を目的に運営されています。
“独立行政法人”とされる、国立の公的機関です。
国の行政の一端を担いながらも、政府の省庁からは独立している組織です。
そのため、業務の活性化、効率化、自律的な運営や透明化が図られ、国民の生活の安定や社会・経済の健全な発展に役立つものとされています。
国立健康・栄養研究所は、1920(大正9)年に内務省の栄養研究所として設立されました。
1923年 の関東大震災時には、全力で罹災者の救護に当たるなどしましたが、特に第二次世界大戦末期から終戦にかけて、国民の食物消費実態を調査し、戦後GHQの指示による国民栄養調査に大きく役立て、戦後の深刻な食糧難を乗り切るのに貢献しました。
1947年 に「国立栄養研究所」として再スタートを切り、国民の健康と栄養に関して毎年調査し、厚労相による『食事摂取基準』の策定に必要な研究データやエビデンスの提供を行うなど、国民の健康と栄養の増進に必要な業務を中心的に行っている公的な研究施設です。
1989(平成元)年 に「国立健康・栄養研究所」と改称。
2001(平成13)年 に独立行政法人として位置づけられ、現在に至っています。
国立健康・栄養研究所の職員も以前に認めた、桑の葉の効能
上記のように、国立健康・栄養研究所はれっきとした公的機関です。
その国立健康・栄養研究所の公式Webサイトに、以前、桑の葉の健康食品としての効能についてまとめられた解説論文がアップされていたことがありました。
少なくとも2008年頃には掲載されていたようです。
その解説論文には、
このような内容が、冒頭に簡潔に述べられています。
そしてさらに、桑の葉の優れた食品機能として、
- DNJの糖吸収阻害効果により、血糖値の急上昇を抑制。
- インスリンの分泌を促進する効果
- 桑葉に多く含まれるγ―アミノ酪酸(GABA)により、血圧上昇を抑える効果。
- 脂質代謝 (血中コレステロールや中性脂肪値) の改善効果。
フラボノイドの抗酸化作用により、動脈硬化を防ぐ作用。 - 桑葉は肝臓に脂肪やコレステロールが蓄積するのを抑える。
肝臓や腎臓の機能を改善する効果。 - その他:発がん抑制、便秘や腸内環境の改善、殺菌作用、骨粗鬆症予防
…など、多くの期待される健康的効果・効能を挙げています。
そして最後に、健康食品として商品化された桑葉製品の安全性については、
- サプリメントや錠剤については、付加価値を求めて他の成分や食品をブレンドした商品も多いが、異なる成分同士の組み合わせによっては、効果が高まることもあるが悪い影響が出ることもあるので注意すること。
- 商品化されたものの多くは、DNJの含有量が明記されていないため、果たして効果的な量を摂取できているのか、もしくは過剰摂取になりはしないか、消費者が判断することは難しい。
- 通常、桑葉を多量摂取することによる悪影響はないとされるが、一部の実験では、高コレステロールのラットに大量投与した場合、肝臓の病理組織的検査の結果、安全性の疑わしい所見が見られたケースもある。
以上のような点について、注意を促しています。
このように製品化されたものの安全性についてはきちんと触れてありますが、全体的な論調としては、桑の葉自体が元々有する健康効果に関して十分に認める内容である と言えるでしょう。
ただし、この論文は 現在では、国立健康・栄養研究所のWebサイトからは削除 されています。
その理由ははっきりとは分かりませんが、一般的に推測すれば、桑葉が健康食品としてビジネス化される風潮が強まる中、立派な公的機関である国立健康・栄養研究所が掲載した論文を、桑葉製品の宣伝のためにさかんに引用する健康食品関連サイトや販売店が増えたためかもしれません。
確かに、あくまで中立的な立場で客観的に健康や栄養に関する情報を国民に提供すべき国立健康・栄養研究所にとって、それは本意ではないということでしょう。
※ この記事は、こちらのサイトを参考にさせていただきました。
国立健康・栄養研究所による、桑の葉の効能の真偽および安全性に対する公式見解とは?
【まとめ】「健康食品」の安全性・有効性情報より
国立健康・栄養研究所のWebサイト内に『「健康食品」の安全性・有効性情報』というコーナーがあります。
ここでは、世間に流通しているあらゆる健康食品や食材について、その効果・効能、安全性などを、過去に発表された実験結果や被害報告など膨大な科学的データから検証し、情報提供されています。
桑の葉の効果・効能・安全性に関しては、こちらのページに詳しく掲載されています。
ここに掲載された内容を簡潔にまとめると、おおよそ次のようになります。
- クワは一般的に、血糖値やコレステロールの抑制作用などが期待されているが、有効性に関する科学的実証は十分でなく、特にヒトでの有効性については信頼できるデータが見当たらない。
- アレルギーを誘発する可能性があるとされている。
- 妊娠中や授乳中の使用については、安全性を確認できるデータがないため、使用は避けるべきである。
- クワの葉には血糖降下作用があるため、糖尿病の治療で血糖値を下げる医薬品を使用している方は、相互作用による低血糖の可能性に注意すべきである。
- ホワイトマルベリーは、適切に使用すれば安全に摂取できるハーブである。
一方、ブラックマルベリーの安全性については、十分な情報が得られていない。
※ | 私が個人的に分かりやすくまとめた内容であるため、場合によっては 誤解を生じるケースがあるかもしれません。正確な詳しい情報が必要な方は、こちらの 公式ページ を直接ご確認ください。 |
この内容については、下の別記事でも分かりやすく解説しましたのでご覧ください。
オススメ! 桑の葉の副作用・弊害・危険性について。安全性は保証されてる?
要は、次のポイントを押さえておけばよいと思われます。
ただし、あくまでも一個人の見解ですので、最終的な判断は自己責任でお願いします <(_ _)>
① | 桑の葉に血糖値や脂質抑制などの過剰な改善効果は期待すべきではない。 |
② | ごく稀にアレルギーの事例もあるので、アレルギー体質の方が摂取する場合は注意すること。 |
③ | 妊婦さんや授乳婦さんは、産婦人科医などに相談の上で摂取を慎重に検討したほうがよい。 |
④ | 糖尿病薬を服用中の方は、摂取の前に必ず かかりつけの医師に相談すること。 |
⑤ | 国内産の桑の葉は“マグワ”系統のものが主流であり、桑の葉の種類による安全性の是非を気にする必要はそれほどないと思われる。 |
【補足】“ホワイトマルベリー”と“ブラックマルベリー”とは?
最後に、上記 ⑤ の「ホワイトマルベリー」と「ブラックマルベリー」について補足しておきます。
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※ 画像はイメージです。 |
現在、日本に生息する桑は100種類以上とも言われますが、その大半は、マグワ (カラヤマグワとも呼ばれる) 系、ヤマグワ系、ログワ系の3系統に属するそうです。
特に、かつて養蚕業の用途のためにマグワから品種改良した “一ノ瀬” という品種が人気で全国に広まったため、現在残っている桑園もマグワ系統のものが主流のようです。
ホワイトマルベリーとは、この “マグワ” の西洋名です (学名:Morus alba)。
一方、ブラックマルベリーは日本名では “クロミグワ (黒実桑) ” と呼ばれます。
漢方医学で用いる生薬として「日本薬局方」にも掲載されている “桑白皮 (ソウハクヒ)” は、マグワの根皮を乾燥させてつくられます。
現在、健康食品開発に向けた桑葉の研究・実験でも、“一ノ瀬” つまりマグワが使用されることが多いようです。
一方、漢方の生薬としての “桑葉 (ソウヨウ)” には、中国ではマグワ (Morus alba) を用いますが、日本では山地に自生しているヤマグワ (Morus bomnycis) を用いることが多いと言われます。
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